EHS総合研究所

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〈EHS研究所 コラム17〉「核兵器なき社会」


2022年7月5日

EHS 総合研究所
所長 則武祐二

「核兵器なき社会」

環境リスク管理とSDGsの視点で考えてみる。

 

背景

企業のコラムページに、このような議題で掲載するのは如何かと考えましたが、環境リスク管理とSDGsの視点で考えてみたいと思います。
このコラム自身がアドボカシーを目指したものではありませんので、誤解なく客観的な一評価として読んでいただければ有難いです。

 

 

環境リスク管理視点では?

リスクは一般的には、影響発生時の影響の大きさと影響発生事象の出現の可能性から評価されます。リスクを超えた便益を得られる場合にのみ、有益と認められます。

 

①影響の大きさ

兵器に関しては、使用された場合と保管などの不測の事態で爆発や放射線漏れが生じた際の影響を考えます。意図して使用されたものは、広島と長崎での2件といくつかの実験によるものですが、実験は被害が最小となるように注意されているので、広島と長崎の被害を評価すべきだと思います。この2件は原子爆弾ですが、現在は水素爆弾を含めて、より強力で桁違いのものとなっています。広島と長崎での影響は、ご存じのように広範囲に、永く、多くの死者や疾病を生んでおり、二度と繰り返してはならないものであることは異論がないと思います。影響範囲を限定的にした戦術核もありますが、武器という性質上、機密事項もあるのでしょう。詳しくは判りません。
影響の大きさを考えるうえで、兵器として使用された際の影響と、保管場所での事故が考えられます。保管場所に関して、米露中であれば広い基地等で住民の居住地から離れたところへの保管は考えられますが、残念ながら日本など国土の狭い他の国では、都市部から十分な距離を取ったところでの保管は困難だと想定されます。従って事故時の影響は大きなものとなるでしょう。

 

②発生の可能性

リスクを考えるうえで、人はミスをする、機械は故障・誤動作をするというのが避けられない前提ですが、核兵器の場合には、さらに重要な点があります。それは人が意図的に使用するという点です。人は誤った行動をするということです。広島・長崎の原爆は、落とした側か落とされた側のいずれかの誤った行動により、悲劇的なこととなったと考えるべきだと思います。もし、どちらの行動にも誤りがなく、爆弾投下に至ったとしたら、それは回避不可能で、リスク管理上は最悪で、今後も再発の可能性は高いと考えざるを得ないと思います。

 

③便益

リスク評価を行う際には、リスクと便益との比較を行うのですが、核兵器を持つ便益とはどのようなものでしょうか。核兵器を持つことにより相手国からの宣戦布告を抑制できると言われています。本当でしょうか。ウクライナが核兵器を保有してたら、ロシアは侵攻しなかったでしょうか。最初に各保管場所に対する壮絶な攻撃が行われるのかもしれません。

 

 

SDGs視点では?

SDGsに関して、最近は「できることから」や「簡単なことから」などのワードが目立ち、本来の「ゴール」と「ターゲット」との関係が希薄な行動が増えているように思います。実際は、国連が定め、日本も含めて参加国が、17のゴールと169のターゲットの2030年のターゲットの達成を約束したものです。

SDGsの「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の全文[i]には下記が記載されています。

 

すべての国及びすべてのステークホルダーは、協同的なパートナーシップの下、この計画を実行する。我々は、人類を貧困の恐怖及び欠乏の専制から解き放ち、地球を癒やし・安全にすることを決意している。我々は、世界を持続的かつ強靱(レジリエント)な道筋に移行させるために緊急に必要な、大胆かつ変革的な手段をとることに決意している。我々はこの共同の旅路に乗り出すにあたり、誰一人取り残さないことを誓う。

 

核兵器使用により、少なくとも次のターゲットは達成が困難になります。SDGs達成に貢献すると宣言している国・企業・人は、核兵器を使用することは認められないことになります。使用しないと宣言した核兵器を持つことは意味がないのではないでしょうか。

 

3.9 環境汚染による死亡と疾病の件数を減らす
2030年までに、有害化学物質、ならびに大気、水質及び土壌の汚染による死亡及び疾病の件数を大幅に減少させる。3.d 健康危険因子の早期警告、緩和・管理能力を強化する
すべての国々、特に開発途上国の国家・世界規模な健康危険因子の早期警告、危険因子緩和及び危険因子管理のための能力を強化する。

 

大国間で長期の戦争が行われれば、核兵器が使用されなくても、SDGsの多くのターゲトの達成は困難になると思います。しかし、核兵器に関しては一度使用されるだけで、上記のふたつのターゲットの達成は困難になります。SDGsの視点からは核兵器の使用は絶対に避けなければなりませんし、前項「②発生の可能性」に記載しましたが、核兵器の不使用を確実にするためには、核兵器の廃絶が望ましいですし、少なくとも核兵器保有国の増加は望ましくないでしょう。

 

 

まとめ

環境リスク管理の視点からもSDGsの視点からも、核兵器はないことが望ましく、少なくとも新たな核保有国がなく、核保有国が減っていくことが望ましいのではないでしょうか。もう一度、「人はミスをする、機械は故障・誤動作をする、人は誤った行動をする。」ということを、冷静に考える必要があるのではないでしょうか。

 

 


[i]外務省訳 000101402.pdf (mofa.go.jp)

 

 

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