循環に適した素材を素材生産者が造っても、それを製品に活用しなければ消費者は購入・利用することはできない。
循環経済型社会は、企業が適切に素材を製品につかわなければ成立しない。
背景
循環経済社会形成に必要なものとして、「買う責任」「造らせる責任」について示しました。しかし、循環経済社会に適した素材が生産されても、それを製品やサービスに適切につかわなければ、消費者は活用することができなく、循環経済社会は成立しません。さて企業は、自主的に適切な素材を活用するでしょうか。
企業が適切に循環型社会に適した素材を活用する動機
企業は利益を上げなければなりません。その中で行動するためには、次のような動機が必要です。
①コスト効果があるから
②規制があるから
③顧客が活用した製品を評価して購入してくれるから
④企業イメージが向上し、製品を率先して購入してくれるから
⑤企業の活動を投資家が評価してくれる(株価上昇や資金調達コストが下がる)
⑥社会から循環に関する活動が不十分だと非難され、製品の販売に影響が出る。
⑦企業理念として、社会的責任を果たすため
個人企業を除いては⑦は①~⑤のいずれかがないと、ほとんどの場合は困難です。でなければ投資家の理解が得られません。逆に言うと、投資家が理解しくれるなら⑤に該当することになります。また、循環経済社会が成り立つためには、特定の先進企業だけでなく、多くの企業が行動に移す動機が必要です。
「つくる責任」は実在するか
資源循環への取り組みが、消費者の行動を変えるようなほどに社会問題化はしていません。海洋プラスチック問題はマスコミでも取り上げられ、社会問題化しているように見えますが、コンビニ等のレジ袋について、一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会の調査では、規制による有償義務化前は辞退率が約28%、有償義務化によって約75%に上昇したという結果[i]が示されています。規制されても、このような状況ですので、前述の③④のような製品購入につながることに大きな期待は描けないでしょう。4月1日から「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が施行されました。何かの製品群について業界団体が率先して「認定プスチック使用製品」のガイドラインを定め、循環経済社会に即した製品を販売することが期待されます。しかし、前回までで示した「買う責任」又は「造らせる責任」が果たされない限り、大きな期待はできないと思われます。このような状況ですので、規制対応を除いては、循環経済社会に向けて「つくる責任」があるというのは無理があると思います。では、企業は何もしなくても良いと言ことではなく、次項で示す行動は意味がありますので、積極的に行動することが望まれます。
望まれること
上記に示したように、規制に対応する以外には「責任」があるとは言えませんが、企業が次のような行動をとることにより、循環経済社会は実現に向かう可能性があります。
①投資家の変化を促す行動
経済産業省が2021年に「サーキュラー・エコノミーに係るサステナブル・ファイナンス促進のための開示・対話ガイダンス」を公表しました。それに対して、リコーは2022年3月に「リコーグループサーキュラーエコノミーレポート2021」を発行[ii]しました。このような取り組みが増えることにより、適切に循環経済社会に貢献する企業を評価する投資家が増加することが期待できます。
②資源生産者との協働
コスト増となることなく循環資源を利用できるように、資源生産者と共同で使用済み製品からの再生材利用量を増加させている例があります。このことは、まさに循環経済社会の実現に向けた行動と言えるでしょう。
③ビジネスモデルの変革
サブスクリプションなど製品の長期使用を可能にする、製品・サービスのビジネスモデルを変革することにより、新たなビジネスの獲得と循環経済社会実現を両立させることが期待できます。
④顧客の変化を促す取り組み
日本環境設計のBRING Technology™[iii]は、回収した使用済みの服から服を作り出す活動で、価格は高いが、顧客が資源循環に価値を見出し購入しています。社会に資源循環が新たな重要な価値であるとの気づきを促します。
「買う責任」「造らせる責任」と合わせて、それぞれが積極的に行動することにより、循環経済社会が形成されることを期待いたします。
[i] レジ袋削減への取組み|一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会 (jfa-fc.or.jp)
[ii] 「リコーグループ サーキュラーエコノミーレポート2021」を発行 | リコーグループ 企業・IR | リコー (ricoh.com)