EU のサーキュラーエコノミーが目指すものは、単なる資源循環ではなく、
社会及び企業経営の持続可能性を求めるもの。
日本市場はどう変化すべきか? 中国の双循環は、何を目指すのか?
(1)EU サーキュラーエコノミー・パッケージ
日本でもサーキュラーエコノミーという用語を見かける機会が増えています。では、サーキュラーエコノミーの目指すものや定義は明確でしょうか。サーキュラーエコノミーは、2010 年代前半から英国など欧州では議論されていましたが、2014 年7 月に欧州委員会が「サーキュラーエコノミー・パッケージ」を公表しました。この時点で政策として位置づけられ、2015 年11 月に欧州委員会が、改定された「サーキュラーエコノミー・パッケージ(CEP)」を採択しました。これはバリューチェーン全体を対象とした政策であり、資源に関して新しいビジネス領域の創出などと、欧州企業の国際競争力の向上により58万人の雇用創出などの経済効果を想定されたものでした。アジアで多くの商品が生産され、EU 市場で使用済みになると、回収と再資源化の向上が義務付けられ、回収された商品の一部は付加価値の低い二次資源として活用される。CEP では、単なる資源循環ではなく、製品の長寿命化などビジネス転換により、付加価値の低下を可能な限り小さく抑え、EU 域外への資源流出を抑えようとするものです。
(2)中国の双循環
一方、中国では、今年3 月に行われた全国人民代表大会(全人代)において、2021 年からの第14 次5 カ年計画で、「双循環」という成長モデルの構築を公表した。ひとつはグローバルでの循環ですが、もうひとつは「国内大循環」の構築です。ここでの循環は資源と資金(投資)の両方であり、具体的な目標や計画は確認できていませんが、海外の制約やバリューチェーンの影響を受ないように、国内の循環を拡大することを目指すようです。EU と中国の取り組みを示しましたが、日本企業にはどのように取り組みが求められるでしょうか。生産と資源処理を中国や新興国に過度に依存することなく、EU がサーキュラーエコノミーで目指すものと同様に、日本国内において保守ビジネスによる長期使用、使用済み製品の再活用やシェアリングなどにより資源を付加価値の高い状況で利用するビジネスへの転換が望まれます。その拡大には、消費者が情報に容易にアクセスでき、理解した消費行動が促される政策と、投資環境の整備も望まれます。国内でのビジネス転換の経験をもとに、製品をEU 域外で製造し輸出するビジネスから、EU 向けのビジネスも、EU 域内での保守や再製造など長寿命化に適したビジネスを展開することができるのではないでしょうか。アジアの国々に対しての日本企業のビジネス拡大にも効果があると思われます。
(3)重要原材料
サーキュラーエコノミーに関する他の視点としては、EU のCFP の優先取り組み分野のひとつとして、重要原材料(CRM: Critical Row Material)というものがあります。 2020年9 月に欧州委員会がCRM の供給に関する政策文書を発表しました。CRM の一覧は2010 年に公表され、何度か見直されていますが、9 月の政策文書では、重要原材料のより安定的かつ持続可能な供給のための基盤整備の方向性が示されました。新型コロナウイルスの感染拡大により、世界的に供給網の脆弱性が明らかになったことに対して、欧州委員会の優先政策のデジタル化と、より環境に配慮した経済への長期的な移行を促すことを目的としたものです。重要となる原材料に関しては、地域や産業の特性によって考え方も重要性も異なりますし、技術進化や政情等によって見直すことも必要です。
EU の重要原材料(CRM)一覧
アンチモン | ハフニウム | リン |
バライト | 重希土類 | スカンジウム |
ベリリウム | 軽希土類 | 金属シリコン |
ビスマス | インジウム | タンタル |
ホウ酸塩 | マグネシウム | タングステン |
コバルト | 天然黒鉛 | バナジウム |
原料炭 | 天然ゴム | ボーキサイト |
蛍石 | ニオブ | リチウム |
ガリウム | 白金族 | チタニウム |
ゲルマニウム | リン鉱石 | ストロンチウム |
日本の戦略的鉱物資源(2012 年 6 月)
アンチモン | インジウム | ガリウム |
グラファイト | クロム | ゲルマニウム |
コバルト | シリコン | ジルコニウム |
ストロンチウム | タングステン | タンタル |
チタン | ニオブ | ニッケル |
バナジウム | 白金族 | フッ素 |
マグネシウム | マンガン | モリブデン |
リチウム | レアアース | レニウム |
鉄 | アルミニウム | 銅 |
鉛 | 亜鉛 | すず |
日本の戦略的鉱物資源に関しては、2021 年3 月に本来は重要な原材料は、産業や企業によって考慮するのが望ましい。味の素グループのように、重要原材料を独自に特定し開示している例があります。
味の素グループにおける重要原材料
農林資源 | ・加工食品や化成品の原料となるパーム油 ・消費者向け加工食品の容器包装や事務用紙に使用する紙 ・アミノ酸類の発酵生産原料となる糖質系農作物 ・コーヒー豆 |
水産資源 | ・「ほんだし®」や削り節の原料のカツオ ・冷凍食品等の原料となるエビ |
出典 : 味の素の持続可能な原材料調達に関するweb サイトより
https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/activity/csr/pdf/2019/SDB2019_fr3.pdf
(4)投資家の評価
大手企業に対する投資家の評価も気候変動対策と同様に、サーキュラーエコノミーに関しても将来に向けて持続可能な経営が行われているのか問われる動きも出てきています。2020 年3 月に、欧州委員会の「サステナブルな金融に関する技術専門グループ」が、『タクソノミー技術報告書』の最終報告書を公表しました。現在の重点課題は気候変動対策ですが、サーキュラーエコノミーも含まれており、金融投資において企業のサーキュラーエコノミーに対する対応が評価されるようになるでしょう。EU タクソノミーについては別の機会に述べたいと思います。