EHS 総合研究所
所長 則武祐二
PCDSは国際規格が来年の年末頃に発行される見込み。
望む、望まないに関わらず、対応が必要となることが考えられます。
ISO/TC323「サーキュラーエコノミー」では国際規格の検討が進んでいます。ISOではルールとして、規格審議の目的以外での情報開示を認めていません。
日本の国内委員会ではルールを厳格に扱われているため、規格の進展をお話しすることができません。
しかし、最近「我が国の循環経済のあり方/グリ−ン×デジタル分野における国際ルール形成動向」としてセミナーで公開され、webでも公開されました[i]。そこで公開されている範囲内でお伝えすると共に、今後、国内で議論すべき点を示したいと思います。
国際標準化とは異なる観点で、日本の中でPCDSは、誰のために、どのような仕組みが望ましいのか、議論し、体制を整備する必要があります。
PCDSは、ISO 59040として検討されており、現在はCD(Committee Draft)です。今年の年末から来年の始めにはDIS(Draft International Standard)としての投票にかけられ、来年の5月か6月にFDIS(Final Draft International Standard)としての投票の後、来年末頃に発行する計画となっています。
規格としての構成は下表のようになっています。
企業にとって影響が大きいのは、7条に示されるPCDSテンプレートです。テンプレートについては、ガイダンスと付属書に例は示されますが、完全には明記されていません。
運用時に問題となるのは、テンプレートは誰が作るのかです。今の規格案では、サプライヤー又は「PCDS authority」が作成できることになっています。
「PCDS authority」は、「セクターに関連する PCDS テンプレートを発行するために、そのセクターを代表する正当な団体であると利害関係者によって認められた団体」と定義されています。
PCDSはサプライチェーンおよびバリューチェーンを通して作成・伝達されるもので、目的は循環経済社会の構築に資することにあるのは間違いないところです。
しかし、サプライヤーやリサイクル業者等、個々のプレイヤーによって期待するものは異なるでしょう。PCDS規格の提案者のルクセンブルグ経済省の報告書に下図が示されています。
図.PCDSの作成と伝達
(出典:Luxembourg Circularity Dataset Standardization Initiative報告書[ⅱ]から訳出)
最終製品の製造業者が作成するPCDSでは次のようなことが望まれます。
・EUの製品デジタルパスポート(DPP)等の規制への対応
・各国の循環経済社会構築を進める、先進的な顧客の要請に応える
・競合製品に対して資源循環視点で優位性を示す
顧客は購入・使用する製品の資源性能を比較できる情報と、使用後の処理に関する情報を望みます。リサイクル業者は、適切なリサイクル方法を考慮するための情報であり、オープンで入手可能なことが望まれるでしょう。
ティア1、2の上流が作成するPCDSに対して、作成者と受け取る最終製品製造者では望むものは異なってくるでしょう。最終製品製造者にとっては、サプライヤーから得られるPCDSを収集・集計し、最終製品のPCDS作成を容易にするものであることが重要となります。
また、これらのPCDSはサプライチェーンが見えてしまう重要な機密情報を含んだものであり、オープンに扱われることは支障があります。
自動車や複合機ではサプライヤーはティア2に留まらず、最上流の素材生産者、海外企業、中小企業も含めて、多くの業界、国が関与しています。ティア1、2のPCDSテンプレートが国や業界団体、場合によってはサプライヤー毎で異なるテンプレートでPCDSが作成されることは、集計等を困難にします。
また上流側のサプライヤーにとっても、下流側の企業から要求されるテンプレートが異なるものになれば、対応に苦慮することになるでしょう。
市場でサプライチェーンとバリューチェーンを通して、PCDSが適正に作成され、伝達されることは、循環経済社会の実現のためには不可欠でしょう。
しかしながら、それは国際標準だけでは実現しません。国際標準をベースにしつつ、多くの産業界で合意のもとで整合されたテンプレートとツールで運用される必要があります。
特に国内の多くの中小企業が、過剰な負担なく対応可能なものでなければなりません。
また、機密情報も含まれますので、他国の政府が関与することも国際競合上の問題となります。国内で関係者による、適切な議論が進められことを期待したいと思います。