SSbD(安全で持続可能な設計)とLCAの関係は、どのようになるでしょうか。
蓄電池開発に関してのLCTとSSbDの調査報告を読み、考えてみました。
EC-CSS(持続可能性のための欧州化学戦略)では、中心的な要素としてSSbD(安全で持続可能な設計)が位置づけられています。本コラムに以前記載しましたが、EC-CSSとSSbDは有害性の高い化学物質は消費者製品に存在しないことを保証することを視野に入れたアプローチとなっています。
LCAでは化学物質に関しては、ライフサイクル全体でのヒト・環境への様々な悪影響を定量的に評価し、エネルギー利用による気候変動などの影響を積算する。
しかし、SSbDにより、使用することが望ましくないとなれば、LCA結果とは関係なく、使用しない設計をしなければなりません。
オランダの国立公衆衛生環境研究所やライデン大学の研究者が「バッテリー技術革新の展望に対する、ライフサイクル思考(LCT)と安全で持続可能な設計(SSbD)アプローチ」とする報告書[i]を発表しましたので、紹介と共に考えてみました。
報告書には概要として下記が記されています。
概要
バッテリー技術の開発はエネルギー転換に不可欠であり、EU が定めた安全で持続可能な設計 (SSbD) の材料、化学物質、製品、プロセスの枠組みに従う必要があります。 SSbD は、化学物質、先端材料、製品、サービスが人体や環境への害を回避する方法で製造および使用されることを保証する広範なアプローチです。
バッテリー技術に関する技術文献および政策関連文献を調査し、LCTの原則にしっかりと基づいた広範な SSbD アプローチに対する推奨事項が提供されました。 このアプローチは、材料、製品、プロセスのライフサイクル全体を通じて、機能的パフォーマンスと持続可能性 (安全、社会、環境、経済) の側面を統合します。
そして、それらの相互作用が SSbD パラメーターにどのように反映されるかを評価します。 22 種類のバッテリーを、重要性、毒性/安全性、環境および社会への影響、循環性、機能性に対してライフサイクル思考アプローチで分析し、コストを考慮して、バッテリーのイノベーションが、意図しない結果を回避するグリーンで持続可能な目的を持っていることを確認しました。
今回の調査によりSSbDアプローチによる、バッテリーの推奨事項を示せたとしています。
LCAに関しては、イントロダクションの部分に下記のように記されており、LCAは実際のリスクを反映するものではないので、EC-CSSの目標である化学物質のリスク管理(毒性のない環境と最も有害な化学物質からの保護)のためには、別の統合的なアプローチが必要としています。
報告書の途中には、バッテリーに使用された化学物質は、発がん性、変異原性、特定の臓器毒性、内分泌かく乱、呼吸感作、呼吸器刺激性、皮膚感作性、皮膚腐食等の毒性を示した。LCA手法には、排出量と毒性のデータが不足しているという課題があるとも記載されています。
しかし、LCA手法による評価も実施されており、必ずしもLCAを全否定しているわけではないようにも見えます。
イントロダクションの一部抜粋EC-CSS では、毒性のない環境と最も有害な化学物質からの保護に向けた野心は明らかです。 重要な進歩は、がんや遺伝子変異を引き起こしたり、生殖器系や内分泌系に影響を与えたり、残留性や生物蓄積性のある化学物質が消費者製品中に存在しないことを保証するための、リスク管理への一般的なアプローチの拡張です。
この一般的なアプローチは、免疫系、神経系、呼吸器系に影響を与える化学物質や特定の器官に有毒な化学物質など、他の有害な化学物質にも拡張される予定です。 一般的に使用されている LCA アプローチは、化学物質排出による環境への影響を人間の安全の観点から評価します (たとえば、指標としての障害調整生存年または DALY)。ただし、EC-CSS で概説されている内分泌かく乱、神経毒性、特定の有害物質などの新しいエンドポイントは、 臓器毒性は特に考慮されていない。
LCA は潜在的な全体的な影響を示すだけであり、実際のリスクを反映するものではありません。 このため、EC-CSS で述べられているように、これらの目標に対処するには統合的なアプローチが必要です。
この報告書では、安全性、環境、社会、経済的なホットスポットを特定し、それらが次世代バッテリー技術の一部に与える影響を評価するための LCT SSbD アプローチが提示されています。SSbD 戦略では、バッテリー技術における有害物質の使用を最小限に抑えるか排除する必要があるとしています。ただ、LCAを否定するのではなく、SSbDを適用するためには、安全性評価、LCA、S-LCA、ライフサイクル コストに対する統合的なアプローチが不可欠としています。
詳細については、この報告書を見て頂ければと思います。
SSbDは化学物質をリスク評価管理するのではなく、有害性の高い物質は設計段階で市場への投入を排除することを目指していると考えていました。
しかし、少なくとも、この報告書の筆者はLCTアプローチにより、適正に評価管理して使用することもあると考えているように見えます。そのためには、化学物質について毒性評価を含めた統合的な評価が必要となります。
[i]Life cycle thinking and safe-and-sustainable-by-design approaches for the battery innovation landscape – ScienceDirect