世界と日本のバイオマスエネルギー利用、再エネの地域特性
日本の森林整備のために木材需要を大幅に増加させる必要性を昨年このコラムで述べました。また、建築物サイクルの長期化や人口減により、建材需要の大幅な増加は困難でしょう。木材需要としてエネルギー利用はどうでしょうか。
木材のエネルギー利用には発電と熱利用があり、日本の2022年度のエネルギー源別の最終消費は図1に示すように電力が27.4%を占めます。熱需要が多いという意見もありますが、最終消費での熱需要は7.2%しかありません。
図1.日本のエネルギー源別最終消費の構成比
出典:エネルギー白書2022を基に作成
木材のエネルギー利用に関していくつかの視点で示します。
日本では再生可能エネルギー(以下、再エネ)として、風力発電と太陽光発電が多く取り上げられますが、実情はどうでしょうか。再エネの導入が進み、すでに再エネ比率が80%を超えているデンマークの状況を図1に示しました。
風力が大きく進んでいますが、太陽光は2023年でも10%以下で、バイオマスが2019年以降20%以上を占めています。
図1.デンマークの電力構成比の推移
出典:環境エネルギーシンクタンク「エンバー」のデータから
https://ember-climate.org/data/data-tools/data-explorer/
日本でも、図2に示すようにバイオマスは着実に増加し、原子力に近づいています。なお、太陽光と風力の関係はデンマークとは異なり、太陽光が確実に増加していますが風力の増加は大きくありません。
バイオマスには木質バイオマスだけではなく、廃食物等のバイオガスも含まれていますが、いずれも天候の影響を受けにくく安定な電源です。図3に示したように年間を通して安定した電源となっています。風力と太陽光は価格など多くの利点とポテンシャルを有し今後も拡大が期待できますが、天候の影響を大きく受ける点と地域特性があります。
図2. 日本の電源構成(非化石電力発電量)
出典:資源エネルギー庁令和4年度(2022年度)エネルギー需給実績(速報)から作成
gaiyou2022fysoku.pdf (meti.go.jp)
図3:日本国内の全発電電力量に占める月別の自然エネルギーの割合(2022年)
出典:2022年の自然エネルギー電力の割合(暦年・速報) | ISEP 環境エネルギー政策研究所
再エネは地域と共生するエネルギーとして期待され、環境省や資源エネルギー庁も様々な施策を展開しいてます。しかし、再エネには地域特性があり、どこでも同様に拡大できるわけではありません。風力に関しては洋上風力が期待されており、そのポテンシャルが地域により異なる点がありますが、環境省の「再生可能エネルギー情報提供システム(REPOS)」[i]等を参照頂ければと思います。ここでは、バイオマスと太陽光に関しての地域特性の特徴だけを示します。
①バイオマス
日本は世界でも有数の森林国で国土の約7割が森林です。大都市圏を除けば全国のほとんどの地域が高い森林率となっており、木質バイオマスを有効活用することが可能です。エネルギー効率の点からは、熱電併給が望ましいのですが、熱利用用途は地域・季節が分散しており、熱電併給のためには発電施設も分散設置することが必要になります。
地域によって調達可能な木質原料の量は限られます。将来を含めて地域での調達量を適切に想定し、過剰な容量の発電施設とならないようにすることが重要です。最初から大規模な発電施設ではなく、調達量に合わせて増設や拡張できるようにすることも考えられます。
バイオガスについては、都市近郊において廃食品等のバイオガスの原料が多く利用もされており、拡大も期待されますが、木質材に比べてポテンシャルは大きくはありません。
②太陽光
太陽光は日射量が発電コストに大きく影響します。日本は緯度も高く、また降雨量が比較的多いため、世界的にみて有利ではありません。国内でも日射量は地域差が大きく、日照時間[ii]が全国最長の静岡県御前崎市の2,326時間に対して、最短の山形県新庄市は1,334時間と40%以上少ないです。自治体で再エネ利用率の拡大に太陽光の利用を検討する際には、地域の日射量を考慮しておくことが望まれます。
木質バイオマス発電に関しては、次の点を考慮することにより有効で拡大が望めます。
✓地域の森林整備が重要な目的
✓地域のエネルギー自給の改善への寄与
✓出来る限り熱電併給によるエネルギー効率向上を図る
✓森林による水源涵養、山地災害の防止、二酸化炭素の吸収等の機能向上
[i] 再生可能エネルギー情報提供システム
(https://www.renewable-energy-potential.env.go.jp/RenewableEnergy/outline.html?energy=wind)