SBTiやTCFDなどの情報開示は、顧客、投資家に評価されるためでしょうか。
自らの経営課題を見つけて対処するためのツールでしょうか。
TCFDなど投資家からの要請により、企業に気候変動に関する財務情報の開示が求められるようになってきました。また、企業はサプライチェーンも含めた取り組みが求められるため、影響は中小企業にまで波及してきています。
企業は投資家や顧客に高い評価が得られるように情報開示を中心とした気候変動対策等への取り組みを進めています。
さて、多くの企業が投資家の高評価を得ることを目的としてSDGsの取り組みを進めているのではないでしょうか。しかし、投資家が求めた本質は、何だったでしょうか。
気候変動対策に関して、2015年度の気候変動枠組条約第15回締結国会議(COP15)の前後に、欧州を中心とした投資家が後押ししパリ協定が締結されました。投資家の変化の始まりは2005年初め国連のアナン事務総長(当時)が責任投資原則(PRI)[i]の策定を投資家に要請し、2006年に策定されたことです。
その後、投資家の変化に応えるものとして、2015年にTCFDとSBTiが発足しました。TCFDは気候変動に関する情報開示であり、SBTiは気候変動に対する企業の目標設定を義務付けるものです。それ以降投資家の評価に応え、さらには投資家の評価に応える大企業と、そのサプライチェーンの企業が対応を必要とされてきました。
さらには2020年にTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が発足し、自然資本や生物多様性の保全のために必要な情報開示が求められるようになってきています。2023年1月に発効したCSRD(企業サステナビリティ報告指令)は、規制としてサステナビリティ報告の開示項目を大幅に拡大しました。
日本でも2021年のコーポレートガバナンス・コードの改訂により、プライム市場の上場企業は、サステナビリティをめぐる取り組みについて方針策定と開示が求められました。
投資家の考えにより、気候変動対策はもちろんとして、自然資本や生物多様性などの情報開示を企業に求めるようになり、それがEUでの規制や日本のコーポレートガバナンス・コードにもつながりました。
投資家が求めた本質は情報開示だけでしょうか。PRIの責任投資ビジョンには、「向こう10年間の私達の目標 は、責任ある投資家と共に、すべての人々のための真の豊かな世界の実現に向けた持続可能な市場を目指し、協働してもらうことです。」と記されています。
持続可能な市場とは、投資先の企業と社会が持続可能になって実現します。情報開示は目的ではなく、企業が持続可能かどうかを判断する手段です。投資家が企業を評価する前に、企業の経営者が持続可能性を自ら評価することが求められます。
情報開示が目的であれば、SCOPE3のデータ等は排出原単位等を使った2次データを利用して算出すれば良いのですが、自らの事業の経営的な課題を見つけ改善を進めることを前提とすれば、可能な限り1次データの利用が望まれます。
経営者が評価するのが望ましく、経営者が将来を通じて持続可能な企業であるために課題がないかを確認することが望まれます。そのことが投資家や社会から高い評価を得ることに繋がります。自らがサプライチェーンを含めて課題がないか、経営者が関心を持ってみることが、企業価値向上のための重要な取り組みと考えた方が良いでしょう。
投資家が投資先企業の持続可能性に関心を持つことは当然のことですし、EU政府がCSRD等により規制をするのは、EU域内企業に負担をかけるのではなく、EU域内企業を強くすることが狙いです。
気候変動だけでなく、水セキュリティ、資源セキュリティなど企業が経営上注意なければならないことは増加します。仕入れ先についても課題があれば、今後淘汰されていく可能性があります。
それらを評価するポイントを投資家が明らかにしてくれているというスタンスで、経営者が確認していくのが良いのではないでしょうか。「企業価値向上は経営者の関与から」だと思います。
[i] PRI (Principles for Responsible Investment)