森林整備のためには、森林整備の担い手確保と
木材需要の適正な増加施策を計画的に進めて欲しい
背景
今年は梅雨入りが早く、近畿では 4 月 16 日に統計を取り始めてから最も早い梅雨入りが発表されました。4 月 17 日には熊本県で大雨警報(土砂災害)が出されました。土砂災害は地球温暖化による気候災害と言われていますが、もう一点、森林整備が進まないことも被害を大きくしている要因です。また、森林整備が進められない理由として、次のようなことが挙げられています。・急峻な地形のところが多く伐採が困難。
・林道整備が進んでいない。
・林業の担い手がいない。
・森林の所有が小規模化し、森林所有者が特定できない。しかし、これらについては下記に示すように対応が可能となってきています。
日本の森林は急峻な地形が多いのは事実ですが、高性能林業機械の導入、中でも伐倒した木を架線で吊り上げ、集積する場所まで運搬する架線系作業システムの導入により、高密度の路網を整備できない傾斜地でも作業が可能になっています。路網整備が必要とされる傾斜が緩やかな地形に向いた車両系作業システムについても、幹線となる「林道」は最小とし、「林業専用道」と「森林作業道」を組み合わせた路網を整備することにより森林整備を行うことが可能となってきています。「林業専用道」と「森林作業道」による路網整備は、林業関係者だけで整備を進めている事例も増えています。林業の担い手不足に関しては、都道府県に林業大学校等が設置され、若手の人材育成が進められており、都市部から地方への人材の移動も起きています。森林所有者が特定できないことは大きな課題でしたが、「森林経営管理制度」が導入され、市町村が所有者不明などで手入れが不足している森林について経営管理権を設定し、適正な整備を行うことが可能となっています。
森林整備の目的を明確に
戦中戦後の混乱期には、森林を木材資源の調達を目的として伐採と植林が行われましたが、本来、森林には下記のような様々な公益的機能があります。
・水源の涵養
・土砂崩れ等の災害防止
・地球温暖化防止(CO2の吸収)
・生物多様性の維持
・レクリエーション等の保養
残念ながら、資源調達を目的としたスギの単一種の植林と、木材需要の減少等による放置による荒廃により、公益的機能は減少しています。中でも、毎年各地で発生する大雨による土砂崩れによる被害は、早急に計画的な森林整備を進め、被害の発生を抑えることが望ましいでしょう。
日本の森林面積は約2500万ha、その内の人工林は約1000万haです。森林は適正に間伐等が実施されないと荒廃し、降水による土砂流出が起こりやすくなってしまいますが、2019年度の間伐面積は表1に示すように37万haと限られています。
表1.間伐等実施面積推移(出典:間伐の推進について:林野庁 (maff.go.jp))
年度 | 間伐等実績(万ヘクタール) | ||
合計 | うち民有林 | うち国有林 | |
H20(2008)年度 | 55 | 43 | 11 |
H20(2009)年度 | 59 | 45 | 14 |
H20(2010)年度 | 56 | 45 | 11 |
H20(2011)年度 | 55 | 44 | 11 |
H20(2012)年度 | 49 | 37 | 12 |
H20(2013)年度 | 52 | 40 | 12 |
H20(2014)年度 | 47 | 34 | 13 |
H20(2015)年度 | 45 | 34 | 11 |
H20(2016)年度 | 44 | 32 | 12 |
H20(2017)年度 | 41 | 30 | 11 |
H20(2018)年度 | 37 | 27 | 10 |
R元(2019)年度 | 37 | 27 | 10 |
日本の森林は天然林に関しても、人が手を入れなくても良い極相林iは皆無であり、ほぼ、すべての森林に対して人手をかける必要があります。また多くの間伐材は利用されずに林地に切り捨て放置されており、林地残材の利用率は、2017年が24%、2025年の目標も30%でしかありません。森林環境税等により、公益的機能の回復に、税金等の投入が増加することは期待できるものの、多くの森林を保全していくためには、林地残材の利用率を高めるだけでなく、現在十分に手が入れられない森林においても間伐等が行われるように、経済的に成り立つ木材需要の大幅な増加が必要です。
また、木材資源は需要量が増えたからと言って、供給量を簡単に増やせるものではありません。需要目標に合わせて、伐採計画を策定し、その中では次の点を明確にする必要があります。
① 公益的機能をどう確保するか。
② 林地所有者との整合。
③ 路網整備計画を策定する。
④ 路網整備と伐採作業に要する人員の養成計画
⑤ 高性能作業機械の調達計画
森林整備計画は長期的なものと林地経営視点での短期の計画とが必要であり、随時見直しも必要でしょう。しかし、最も重要なのは、「①公益的機能をどの確保するか」で、その中でも、地域に大きく影響を与える土砂災害防止につながる機能を保全することが望まれます。地域の関係者が、どのような森林にしたいかを協議し、経済的に成り立つことを前提とした、将来に向けて残す森林像を明確にすべきでしょう。
④⑤については、一時的には地域外の組織への委託・活用も含めて実現性を高くすることもできるでしょう。
木材需要に関しても、地域外に頼ったものではなく木材資源を利用する設備も含めて地域が管理できるものが望ましいでしょう。
今後、日本の国土の多くを占める全国の森林が、経済的に自立し、地域の雇用にも貢献し、そのうえで十分な公益的機能を有した豊かな森林となることを願います。
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