EHS総合研究所

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〈EHS研究所 コラム40〉水セキュリティに対して


2024年6月26日

EHS 総合研究所
所長 則武祐二

水セキュリティに対して

投資家が関心を持ち、CDPでも評価される水セキュリティ。

日本では水利用に関して、関心は薄いが何故評価対象なのかと評価ツールはあるのか?

 

 

背景

CDPで水セキュリティが日本企業も対象になってから2023年が10回目となっています。2023年には日本企業1,207社が調査対象となり、43%の513社が回答されています。「A」「A-」評価の企業は93社で、その大半は2022年にも回答している企業です。新規回答企業の多くは「C」評価以下となっており、新規に回答する企業にとって高評価を得るが難しいことを表しています。日本では、水セキュリティという用語にも馴染みがない方が多いと思います。日本では水は普段は潤沢に使用でき関心は薄く、水問題というと排水汚染のことと考え、問題はないと思われる方も多いと思います。しかしながら、今回の調査結果からも、水使用が日本企業にとっても重要であり、経営上のリスクも評価していく必要かあることを示しています。

日本でも地下水の問題として、リニア新幹線のトンネル工事による大井川の問題などが話題になっています。日本の水の問題についても、少し触れたいと思います。

 

 

CDPの水セキュリティ評価のポイントと回答企業の状況

CDPの水セキュリティのポイントは、すべての人々が水を安心して使用されることです。そのために企業が次の行動を取ることが望まれています。

・淡水源への依存を減らし、その進捗状況を追跡する。

・水資源の相互作用に関して容量データを収集・共有する。

・価値創出における水の使用量を認識する。

・直接操業の枠を超えてバリューチェーン全体に渡って水を考慮する。

もちろん水質を保護するために企業は、有害物質の使用と水への排出について報告することも求められます。

 

 

2023年調査の報告[i]では各ポイントに対して次のような点が記載されています。

①水の重要性

回答企業の約7割が十分な量の良質な淡水が利用できる事が重要と考えています。

 

②バリューチェーンとのエンゲージメント

継続回答企業の81%はバリューチェーンパートナーとのエンゲージメントを行っています。

 

③モニタリング

直接的な水の利用可能性に一定の重要性を見出している日本企業のうち78%はすべての事業所において定期的に取水量をモニタリングしており、取水量をまったくモニタリングしていない企業はほぼないとなっています。ほぼすべての企業は、水ストレスの高い地域における取水の有無を認識しており、43%の企業は水ストレスの高い地域での取水があると回答しています。

 

④水リスク評価

継続回答企業の93%は直接の操業における水リスク評価を実施していると回答されていまし、76%の企業はサプライチェーンにおける水リスク評価も実施しています。水リスク評価には、WRI Aqueduct[ii]やWWF Water Risk Filter[iii]などのツールを多くの企業が利用していますが、ツール以外にも政府や行政のデータベースも利用して詳細な水リスク評価を実施しているようです。

 

⑤ガバナンスと戦略

継続回答企業の93%は水に関する課題を取締役会レベルで監督しています。

長期的な経営目標を達成するための戦略策定にあたって水関連課題を考慮している企業は継続回答企業では81%となっており、75%は財務計画を策定する上で水関連課題を考慮しています。

 

日本の水問題

日本は世界有数の森林国であり、豊富な淡水が存在します。また、上水道の普及率は約98%で、どこでも利用することができます。一方でリニア新幹線のトンネル工事による問題など地下水については理解されていないことも多いと思われます。

地下水は多くの地域において河川や湖等の表層水と共に大量に存在し生態系に大きな恩恵を与えていますが注意する必要もあるでしょう。

 

①富山湾の地下水

富山湾に関しては、「樹1本、鰤1本」と昔から言われているように、立山連峰の森林が育んだ地下水が海底から湧き出ることによって、生態系を支えています[iv]。魚津市では年間5億トンの雨や雪が降り、その内の8千万トンが地下へ浸透し、2千万トンが水道水や工業用水として使用され、残り6千万トンが海へ出ていきます[v]

もし、トンネル工事等でこの地下水が湧き出てしまった場合は、地中に戻すことが必要となるでしょう。

 

②東京都の地下水

東京の地下水位は第2次世界大戦の前から揚水使用により低下が続き、多くの地域で地盤沈下が見られましたが、1975年に地下水使用合理化基準が設定されるなどにより以降は総じて上昇傾向にあり、場所によっては数10m上昇しているところもあります[vi]。逆に地下水位の上昇により、東京駅の浮き上がりが問題となり、その対策も行われています[vii]

 

③福井県大野市の地下水警報

大野市では、少雨などによる渇水期に地下水利用が増加し、井戸枯れなどが起きます。そのために地下水警報というものが発令されます。

 

 

まとめ

皆様方の水に対する認識は変わられたでしょうか。水問題の事例では大規模なものを記載しましたが、地域によっては銭湯での地下水揚水による影響が出来ることもあります。日本にも無関係ではないですし、サプライチェーンでの対応も増加すると思われます。

 


[i] CDP_Water_Security_Japan_2023_0319.pdf

[ii] Aqueduct Tools | World Resources Institute (wri.org)

[iii] WWF Water Risk Filter

[iv] 「木一本、鰤(ぶり)千本」─豊かな海を育んだ海底湧水の秘密 |一般財団法人セブン‐イレブン記念財団 (7midori.org)

[v] 魚津の水循環022305.pdf (city.uozu.toyama.jp)

[vi] 東京都土木技術支援・人材育成センター令和4年地盤沈下調査報告書000066298.pdf (tokyo.lg.jp)

[vii] 東京駅地下水対策 | 事例紹介 | 土木部門(アンカー工法・橋梁) | KTB協会 (ktb-kyoukai.jp)

 

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