EHS総合研究所

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〈EHS研究所 コラム42〉「想定外」は言い訳にもならないか?


2024年8月20日

EHS 総合研究所
所長 則武祐二

「想定外」は言い訳にもならないか?

バブル崩壊、東日本大震災や何らかの破綻が起きるたびに「想定外」という言葉が聞かれました。

今後、経営者や為政者から「想定外」が使われないことを願います。

 

 

背景

1990年代のバブル崩壊と2011年の東日本大震災では、「想定外」が様々なところで聞かれました。一方でリスク管理等の研究者からは「想定外」は言い訳にもならないという論文が多く発表されました。経営者は「想定外」と言いたいことがあるでしょうし、実際に「想定外」だったと考えていることもあったでしょう。しかしながら多くの研究者が言うように「想定外」の事態になった場合は、リスク管理上大きな欠点があったことは明らかであり、何らかの失態があったと考えるのが望ましいでしょう。

 

 

リスク管理で最も重要なリスク評価

リスク管理は大地震や気候変動による自然事象によるものだけでなく、景気変動、法令順守など様々な事象に求められます。多くが経営リスクに直結するので、リスク管理に経営者の関与は不可欠です。

一般財団法人リスクマネジメント協会(以下RAMJ)[i]では、リスクを次のように定義しています。

リスク=事象の発現により、結果的に組織が損失や影響を受ける、又はその結果が組織の目標達成を阻害する可能性がある状態。
 

RAMJのリスクマネジメントシステムも他のマネジメントシステムと同様にPDCAサイクルを回すことが基本となっています。PDCAは「Plan(計画)→Do(実行)→ Check(評価)→ Action(改善)」ですが、RAMJではDoの中に、リスクの認識、リスク分析、リスク評価、リスクへの対応、対策の立案、対策の実施がすべて含まれており、リスク評価はDoの中で実施することになっています。しかし、個々のマネジメントシステム、例えば労働安全衛生マネジメントシステムでは、リスク評価はマネジメントシステムの最重要ステップのPlanの中で実施することと位置付けています。リスク評価が実施されなければ目標も計画も立てられないとされています。私は経営上重要なリスク管理事項においては、リスク評価は、計画や目標を立てる前に行われることが望ましいと考えます。

 

 

リスク評価段階では対応の可能性を考慮すべきではない

リスク評価で重要なことは、評価の段階で対応方法を考えるべきではありません。対応するかどうかは、リスク評価結果に対して対応策を検討し、事象が発生した際の影響やコスト対効果などから実施する対応レベルを決定するのが望ましいです。その際にゼロリスクは困難な場合も多く選択すべきものでないこともあるでしょう。

 

 

想定できたが対策をしなかった場合との比較

リスク評価を適切に行い起きうる事象が明らかになった場合でも、前述のようにゼロリスクを目指した対応を取れない場合があります。不幸にも事象が起きた際には、「事象が起きる可能性があることは想定できたが、対策は様々な問題があり評価の結果十分に実施できなかった」と説明することになります。「想定できなかった」と言い訳をするのと、どちらかが社会からの評価が低下するでしょうか。難しい点はありますが、取り得るべき対策を取れば被害は最小化でき、社会からの評価の低下も抑えられるでしょう。

訴訟や裁判で、想定できたかどうかが争点となっているような場合がありますが、多くの場合は、リスク評価を含めて取り得るべき対策を行っていたかの方が重要となるでしょう。

 

 

PDCAサイクルは最善ではない

変化の激しい昨今では、経営にはPDCAサイクルよりもOODA(ウーダ)ループの方が適切に対応できると様々なところで指摘されています。リスク管理においても、それは同様だと思いますので、OODAループに関しては別の機会に紹介したいと思います。

 

 

まとめ

適切なコミュニケーションも必要でしょう。最近、洪水等で「想定を超える」という発言も良く聞くことがありますが、これも多くの専門家が気候変動を警鐘しています。「想定外」という言葉が経営者や為政者から発せられことがないことを望みます。

 


[1] 一般財団法人リスクマネジメント協会ホームページ (arm.or.jp)

 

 

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