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EHS総合研究所

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〈EHS研究所 コラム45〉オフィスビルの省エネ規制はどう変わる


2024年12月4日

EHS 総合研究所
所長 則武祐二

オフィスビルの省エネ規制はどう変わる

2024年4月施行の省エネ性能表示、2025年4月施行の建築物省エネ法改正による小規模非住宅建築物の省エネ基準適合義務化。借りる側にも選ぶ判断材料が。

 

 

背景

業務その他部門のCO2排出量は2022年度において1.79億トンで17.3%を占めています。1990年度比では36.6%増、2013年度比では23.6%減です。日本の2030年の温室効果ガス削減目標の46%削減には更なる努力が必要です。

図1. CO2の部門別排出量(電気・熱配分後)の推移

出典:環境省2022 年度の温室効果ガス排出・吸収量(詳細)

 

業務その他部門のCO2排出量は建築物に関わるものが多く、建築物省エネ法の改正は影響が大きいと思います。

 

 

小規模非住宅建築物の省エネ基準適合義務化

2025年4月から、これまで300㎡以上の非住宅建築物に適合義務化されていた省エネ基準が、住宅と共に小規模非住宅もすべて対象となります。2025年4月以降に着工する建築物の一次エネルギー消費量は、BEI値によって計算し、小規模非住宅についてはBEI値が1.0以下となることが必要になります。対象となる設備は、空気調和設備(暖冷房設備)、換気設備、照明設備、給湯設備、昇降機です。適合基準は今後も段階的に強化されることが考えられています。

 

 

省エネ性能ラベル表示制度

2024年4月以降、事業者は新築建築物の販売・賃貸の広告等において、省エネ性能の表示ラベル[i]を表示することが必要になっています。

表示は、「省エネ性能ラベル」と「エネルギー消費性能の評価書」の2種類をセットで発行するものです。

[i] 建築物の省エネ性能表示制度(第三世代BELS)

 

図2.非住宅建築物の省エネ性能ラベル例

出典: 建築物省エネ法に基づく建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度ガイドライン (第2版 改定)

 

 

既存建築物であっても建築時に省エネ性能を評価している場合には、その販売・賃貸に際して告示の規定に基づき省エネ性能ラベルの表示を行うことが望ましいと考えられます。特に、2021年4月以降は、概ね全ての建築物の新築等の際に、建築物省エネ法に基づく省エネ基準 への適合義務・所管行政庁への届出義務・建築士による説明義務のいずれかが課されており、これらの手続きの過程で省エネ性能が評価されることとなっているため、同時期以降に新築等された建築物については、これらの手続き等に用いた図書等から、比較的容易に省エネ性能を把握することが可能と考えられます。

省エネ性能ラベルに関しては、販売・賃貸事業者、仲介事業者、賃貸管理事業者、設計者等それぞれに役割があります。

 

 

エネルギー消費量に大きく影響する機器選定

「大は小を兼ねない[i]」は国土交通省国土技術政策総合研究所の主任研究官宮田征門氏がセミナー等で発信されています。空調等で能力過剰な設備を導入し、低負荷域で運転することはエネルギー消費効率の悪い運転となることあります。

前述の宮田氏の資料には、2024年改正省エネ基準が求めている設計について次のように記されています。

[i] 国土交通省 国土技術政策総合研究所 宮田征門主任研究官セミナー資料

 

最小限でシンプルなシステムを高度に動かす!

・負荷削減

– 設計初期段階からエンジニアリングを。シミュレーションの援用

・最適な機器選定

–適切なピーク負荷計算。 ←適切な条件設定(機器発熱等)、安全率

–シミュレーション による室内環境の検証

–発注者要件、設計主旨文書の明確化・文章化⇒ Cx

・高効率化

–ほぼ限界?低負荷率時の高効率化に課題あり?

・建築分野と機械分野の協働が必要。

・省エネ制御

–ピーク時の性能だけではなく、年間性能を考慮した設計を。

・やはりシミュレーションの援用が重要。

– 運用開始後の検証、チューニングも重要。特に搬送系 。

図3. 2024年改正省エネ基準が求めている設計

出典: 国土交通省 国土技術政策総合研究所 宮田征門主任研究官セミナー資料より

 

 

借主の責任(使う責任)

オフィスの電力利用に関しては、貸主であるテナントオーナーの役割と言われますが、賃借契約時に借主はエネルギー効率を確認し、必要な場合は建築物を選択することができることを認識することが重要です。

既存建築物であっても、前述のように2021年4月以降に新築等された建築物は、比較的容易に省エネ性能を把握できることが考えられます。

 

 

まとめ

建築物は寿命が長く、新築建築物は大半がカーボンニュートラルを達成しなければならない2050年にも残っているでしょう。再エネ電力が安価で豊富に使える状況になるのは難しい中、エネルギー消費を大幅に減らす必要があると思います、既存の建築物も含めて建築物のエネルギー効率の改善のためには、「適切な設計」「情報開示」および「借主による選択」が益々必要になると思います。

 

 


[i] 建築物の省エネ性能表示制度(第三世代BELS)https://www.mlit.go.jp/shoene-label/

[ii] 国土交通省 国土技術政策総合研究所 宮田征門主任研究官セミナー資料 http://www.archsj.jp/img/file49.pdf

 

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