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EHS総合研究所

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〈EHS研究所 コラム46〉始まった資源循環とCFPの情報伝達


2025年1月15日

EHS 総合研究所
所長 則武祐二

始まった資源循環とCFPの情報伝達

含有化学物質の情報伝達は定着しましたが、部品等に関して提供するまでのGHG排出量と循環材料の使用情報が求められように検討が進んでいます。

 

 

 

背景

製品含有化学物質の情報伝達は、日本では電気電子製品等でChemSHERPA[i]により普及してきましたが、資源循環と温室効果ガス(GHG)排出量に関してもライフサイクル全体で算出する必要が出てきており、そのためにサプライチェーンでの情報伝達の検討が始められている。

 

 

資源循環情報伝達の動向

製品の循環資源利用については、部品点数の多い商品組み立て製品に関しては、リサイクル設計基準として分解容易性やプラスチック材料の統一化などが求められていましたが、再生資源の利用が求められるものではありませんでした。

しかし、米国EPEAT[ii]の基準に「再⽣可能/バイオベースプラスチック材料含有量の宣⾔」のように再資源の利用が求められるようになっています。

 

このために、各社が再生材料を多く使用することが始まっています。

例えば、リコーが本体の樹脂総重量の約50%に再生プラスチックを使用した複合機を2023年に発売しました[iii]。これを達成するためには、サプライヤーの協力も必要になっています[iv]。今後、再生材の利用が製品の環境性能として取り上げられる中、トレーサビリティを含めてサプライチェーンでの協力と管理が必要になります。

 

サーキュラーエコノミー指標に関してはISO/TC323「サーキュラーエコノミー」[v]国際規格が検討されています。

資源循環に関する情報伝達については、あまり明らかにされていていませんでしたが、「化学物質審議会 産業構造審議会製造産業分科会 化学物質政策小委員会 合同会議」において、CMP(仮称)構想[vi]について紹介されました[vii]。その資料によると2026年頃に大規模実証を経て運用開始を目指すとされています。

 

 

GHG排出量の情報伝達の動向

サプライチェーンでのGHG排出量の開示が必要なものとしては、組織としてのサプライチェーン上下流を含めた排出量と個々の製品のライフサイクル全体での排出量があります。

 

組織としてのGHG排出量については、GHGプロトコルやSBTiで示されているSCOPE3排出量の算出と削減のためです。すでにいくつかの企業においてサプライヤーに対して算出・目標設定・削減等が要求されています。

 

個々の製品に関しては、製品のLCA(ライフサイルアセスメント)のために、サプライヤーに対しての要求が活発になってきたものとして建築業界があります。元々2000年代前半から、建築物の環境性能で評価し格付けする手法として「CASBEE」(建築環境総合性能評価システム)が開発され、関連して建築物のLCCO2排出量算定の動きが始まりました。最近では2023年4月のG7気候・エネルギー・環境大臣会合コミュニケで建物のライフサイクル全体の排出量を削減する目標を推進することが推奨されました。EUでは、昨年4月にEU建築物エネルギー指令が改正され、2028年から一定規模以上の新築建築物はライフサイクル全体のGHG排出量の算定開示が義務付けられます。

 

製品のライフサイクルの環境情報を開示するSuMPO EPD[viii]でも、最終商品ではない建設用鉄鋼製品(中間財)などの算定ルールが作られ、めっき鋼板やフローリング材など多くの建設・建築用品のデータが登録・開示されています。建築業界に対するサプライヤーである建材メーカー等が積極的に対応されており、さらに公開データにされている以上にサプライチェーン内で伝達されているでしょう。

 

電池に関して、EUでは2023年8月に電池規則が施行され、今後、ライフサイクル全体で排出されたGHG排出量の申告が義務付けられます。一方、日本でも経済産業省が主体として進めるウラノス・エコシステム[ix]の中で自動車・蓄電池業界横断のデータ連携において、「まずは蓄電池のカーボンフットプリント(CFP)データについて、各企業の営業秘密の保持やアクセス権限の確保を実現しながら、企業をまたいで サプライチェーン上のデータを共有・活用できるようにするためのデータ連携システムを構築。」とされています[x]

 

前述のように先行しているのは建築業界と蓄電池業界ですが、今後、他の業界にも拡大していくことは避けられないと思います。

 

 

まとめ

要求されてから検討するのでは対応が遅れ、取引先から契約を切られるリスクも出てきます。前向きに考え積極的に取引先に削減も含めて提示することも検討することが望ましいでしょう。

さらに、注意すべき点はカーボンニュートラル社会の構築が目的であり、算出が目的ではありません。従って算出においては削減も視野に入れ、業務プロセスの改革も必要となることがあることも理解しておくことが必要でしょう。また、課題として伝達する情報のトレーサビリティ確保と認証がありますが、個人的には過剰な負担となるような制度とならないことを望んでいます。

 

 


[i] https://chemsherpa.net/

[ii] Electronic Product Environmental Assessment Tool:電子機器製品が環境に対して配慮された商品を認証・登録 エコラベル|Global Electronics Council

[iii] A3フルカラー複合機「RICOH IM C6010/C5510/C4510/C3510/C3010/C2510/C2010」、エコマークアワード2023 ベストプロダクトを受賞 | リコーグループ 企業・IR | リコー

[iv] プロフェッショナルの力を集結した「再生材使用率50%」のチャレンジ。 最先端環境性能を搭載したA3カラー複合機が生まれるまで | ストーリーズ | リコーグループ 企業・IR | リコー

[v] ISOTC323

[vi] CMP(Chemical and Circular Management Platform:次世代製品含有化学物質情報・資源循環プラットフォーム)

[vii] 資料8 化学物質に関する情報伝達の取組

[viii] EPDについて | SuMPO EPD

[ix] https:ウラノス・エコシステムの概要

[x] 第4 貿易プラットフォームの利活用推進に向けた検討会/資料6

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