
武器弾薬製造販売はESG投資対策で撤退しなければならないのでしょうか?
ESG投資は何を目指しているか考えてみたいと思います。
背景
ダイキン工業株式会社が白リン発煙弾の製造から撤退し、コマツも関連事業から撤退することが報道されました。その背景にはESG投資を進める投資家の影響があったとされています。一方で欧州系ファンドがESG投資の投資対象に防衛関連株を加えたとする報道もされています。
また、三井住友フィナンシャル・グループなどが、脱炭素を目指す国際的な枠組み「ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)」から脱退しました。ESG投資は変化しているのでしょうか。
ESG投資とは
ESG投資は、財務的な要素に加えて、非財務的な要素であるESG(環境、社会、ガバナンス) を考慮する投資のことをいうのが一般的かと思います。事業を行う上では、資源、エネルギーそれにヒトを活用し、「環境」や「社会」等(EとS)に影響を与えます。EとSに与える影響による財務への影響(正と負)を、将来まで考慮・評価し実施できる体制(G)が望まれます。その点を分析し企業価値を評価し、資産価値を損ねることがないように投資を行うことがESG投資と考えられます。以前はESGを非財務情報として企業が開示し、投資家が財務面への影響を評価するものでしたが、現在は気候変動に関するTCFDのように、企業が環境(E)と社会(S)への影響を把握・評価し、財務(F)への効果を自ら評価し情報開示を行うことが求められはじめています。
今回のテーマについては「社会(S)」に関しての基準が曖昧であることを認識する必要があります。「環境」に関しても気候変動に関しての反論などがありましたが、現在ではカーボンニュートラルが国際的にも整合され国連の動きなどを把握・行動していればESGを重視する投資家とのギャップは少ないでしょう。
図 ESG投資に関連する主な事項
しかし、「社会」に関しては明確な国際ルールは決まっていないものが多々あります。
兵器の扱いに関して
例えば、背景のところに記載した砲弾に関してですが、どのような兵器が投資家に問われるのでしょうか。非人道的な兵器に関しては、1983年に発効された「特定通常兵器使用禁止制限条約」があり、「過度に傷害を与え又は無差別の効果を有することがあると認められる通常兵器」は規定されました。いくつかの付属書において兵器の種類により禁止や制限を定めています。ただし、日本が締結していない付属書もあります。背景に記載しました企業の例では、非人道的な兵器とされていなく自衛隊の演習向けであり売上高に占める割合も低いものを、投資家からの意見により事業撤退をされたとのことです。一方でロシアのウクライナ侵攻に関連して、武器は平和を維持するために必要とする意見が増加しています。ESG投資に焦点をあてたファンドが保有する航空宇宙・防衛関連の金融資産が、「民主主義を支える」などの理由から増加しているとの報告もあります。
米国の軍需産業の株価は大幅上昇しており、実質としての売り上げ増と従業員増も起きています。
金融機関の脱炭素を目指す国際的な枠組み(NZBA)からの離脱
三井住友フィナンシャル・グループたけでなく、野村ホールディングス、三菱UFJフィナンシャル・グループもNZBAから脱退したと報道されています。米国やカナダでもゴールドマン・サックス・グループなど主要な金融機関での離脱が続いています。
NZBAは、2021年4月に国連環境計画・金融イニシアティブよって設立され、世界の大手銀行が加盟しています。2050年までに融資・投資・資本市場活動をネットゼロにすることを約束しており、中間目標に対してもかなり厳しい原則があります。特に石炭や鉄鋼などの炭素集約型セクターに対する目標設定が義務付けられています。投融資活動に多くの制約を受ける可能性もあるなどの理由で離脱企業が増えていると思われます.ただ、離脱した金融機関も脱炭素に関する投資は続けるとしていますので、ESG投資に関する流れは変わらないと思われます。
まとめ
ESG投資の考え方は企業のESGに対する取り組みを適切に実施することで、企業の財務価値が損なわれることなく向上することです。投資機関にとっても投資先企業の財務価値が向上することは望ましいことです。社会が必要とし、利益が上げられる事業活動を行うことは、ESG投資に反するものではないと考えられます。しかし、投資機関が自身の価値観に適合する企業に投資することは妨げられるものではないでしょう。
ESG投資の流れは大きく変わることはないと思われます。企業にとって重要となることはTCFDで求められているように、ESGに関して自らESに関して把握・評価を行い、財務への影響も評価し、企業の財務価値を高める行動を情報発信と共に行うことです。ESG投資を正しく理解し、持続可能な社会に向けて正しく行動されることを期待します。
以上